About Us

YORONresearchの活動方針ですが…

■このYORONresearchのサイトは、調査法にかかわる議論および研究・教育活動とその成果の開示を目的として2020年5月1日に開示されました。編集責任者の松田映二は、1988年4月1日から2010年9月30日までの22年6カ月の間、朝日新聞社世論調査部(入社時は「部」ではなく「室」でした)に在籍し、世論調査の質問作成・調査の運用・調査結果の分析・取材・記事の出稿のほか、調査メソドロジストとして新しい調査法の開発(RDD調査、高回収率の郵送調査など)に携わり、調査スタティスティシャンとして選挙予測のための統計モデルを作成するなどの実績を残しています。とくにRDD調査や郵送調査においてはエバンジェリストとしてノウハウを開示し、普及に努めました。2014年1月1日から2020年3月31日までの6年3カ月は埼玉大学社会調査研究センター所属の准教授として、調査法や統計学にかかわる教育と研究活動に従事。これらの経験が調査法にかかわる方々の参考になればと考え、この間の成果とその後の考察を広く開示いたします。なお、この頁が About Me ではなく Us となっているのは、調査法の改善に尽力してきた方々およびいま苦闘している方々の研究成果や情報開示の恩恵を受けているからです。

■調査の運用は、IT技術の進展や社会生活の変容の影響を大きく受けます。戦後50年ほど世論調査法の主流であった面接法の回収率は50%を下回るものも多くなり、報道機関が実施しているRDD法による内閣支持率調査の回収率も実質20%台に急低下しています(アメリカでは5%程度に低迷)。こうした事態に対応すべく、「調査法を学問として扱う欧米の研究論文」「報道やリサーチ会社の調査現場で奮闘する調査者からの情報提供(調査者のみなさま、引き続きご協力ください)」などをもとに時間の許される範囲で思考した成果も開示し続けます。ただし、当サイトの「3つの優先」規範(倫理綱領:①調査の対象者の安全を優先する、②調査結果の精度を高めることを優先する、③精度/調査誤差を見極められる情報の開示を優先する)に従った見解が中心となることをご承知おきください。

■戦後の科学的社会調査の草分けといわれる林知己夫氏が2002年8月6日に逝去される直前、『新情報』第86号(2002年2月)に「いま調査者が心掛けること」が掲載されました。この中で先生は、「電話調査・インターネット調査を……『使うべからざるところに使う』調査改革者は、調査の良心を捨て、いわば邪教の教理を信じ込むものであり異端である。……並みいる『調査改革者』の群れを薙ぎ倒しにかかる積りでいる」と宣言しています。一方で、『林知己夫著作集15:未来を祭れ』(勉誠出版:2004年)の中に輿論科学協会25年誌(1970年)から転載された随筆文「未来を祭れ」があり、「現在も未来から見れば、『古きよき時代』になる可能性がある。『古きよき時代』にするには新鮮な気構えで、未知の課題、新しい問題を見出して知慧を高めて行けばよい。『旧来の知識』の枠からぬけ出すことが出来ず、先人から受け継いだ眼からしかものを見ることが出来ないとしたら、日々は灰色である。存在する既存のものからつねに、はみ出して行こうとする態度、既存のものにもう一度反省を加えてやりなおして行く態度であるならば常に『よき時代』はつくれるのである」と述べています。両方の内容が相反するように読めますが、そうではありません。従来の調査法や新しい調査法が「邪教」になるか「よき」調査になるかをその時点において「科学的な」調査法であるかどうかという共通の基準で区分けしています。回収率が低くくて対象集団の縮図になっていないことや調査結果に付随する誤差幅を計算できない調査を「邪教」と評しています。ただ社会変化に対応したと吹聴する新しい方法がよいわけではありません。欠点を抱えた従来の調査法をそのまま守り続けることもよいとは思えません。未来を祭るためには、従来手法の存続にも新しい手法の開発にも科学性が求められます。

■選挙予測や新手法開発の助言を得るために、渋谷の桜丘にあった「林」事務所によく通いました。助言を得るつもりが双方の持論を戦わせる場となり、アイディアを否定されることも多かったことを思い出します。しかし、明朝早くに(8時半から9時頃)職場に電話をかけてきて、「すまん。あれね、昨日のは君ので大丈夫だ」と一晩熟考したうえでの前言撤回もあり、議論した翌朝は早く出社して電話を待つことが習慣となっていました。私の独りよがりかもしれませんが、そうした議論の中から、「調査者の矜持」を学んだつもりです。調査法の専門研究機関が無い日本で、このサイトの情報を随時更新していくことが、いまの私にできることです。それらの開示情報をご覧になっていただくことで、「いま調査者が心掛けること」について何かを感じ、考えるきっかけにしていただければ幸いです。

YORONresearch 松田映二 / 2020年5月1日