References

調査法にかかわる参考文献ですが…

西暦の年度ごとに最新のものから掲示してあります。論文タイトルは原文へのリンク付ですが、PDF開示されていないものには閲覧情報が表示されます。タイトル文の右端にある記号「∨」をクリックすれば説明文が表示されます(執筆背景などを記したものもあります)。不備などあれば info へメール連絡いただければ幸いです。

R2022A> 松田映二(2022). 2021年衆議院選挙の予測報道と選挙結果の比較検証, YORONresearch Reports, 2022/03/28. (2022/03/31にresearchmapで公開)

2021年衆議院選挙における予測報道の大失敗と大成功の明暗は、調査手法の劣化に対する対応の違いにより顕在化した。電話調査(RDD)の回収率が20%程度まで低下しているにもかかわらず、自動音声などを利用(回収率は数%~10%程度)したさらに低品質なデータで予測したことによる影響である。予測式で修正可能という目論見がはずれた。情勢の変化を言い訳する前に、冷静に失敗の真因を見出してほしいものである。その一助として分析レポートを公開した。新聞に公開されている範囲のデータであっても整理・分類の仕方で見えてくるものがある。

R2022B> 松田映二(2022). 2022年参議院選挙の予測報道と選挙結果の比較検証, YORONresearch Reports, 2022/09/30. (2022/09/30にresearchmapで公開)

2022年参議院選挙における各社の予測報道では全体傾向は言い当てていた。しかし、各選挙区情勢の妥当性をみれば、大きな課題が残されたままであることがわかる。安倍元首相が情勢報道の影響を受けたのか急に奈良県入りし、大和西大寺駅前で応援演説中に銃撃され命を落とした。読売と日経の両新聞社は協力して自動音声を利用し電話で調査したが、分析は各社独自に実施。読売は前年の衆院選の失敗を活かし当選予想は好成績だったが、同じデータを用いた日経の予想記事は多くの課題を露わにしている。新聞で報道された範囲のデータによる分析レポートを公開する。

選択肢縦配置における正順と逆順で回答結果が異なることを同時に聞いた7つの質問を用いて比較検証している。上のほうに配置された選択肢が選ばれやすい現象(初頭効果)を選択肢個々の有意差比較だけではなく選択肢全体のモーメントを定義して分析し、男性や学生で初頭効果が発現しやすいことを示した。この回答行動の特性をクロスニックの「満足化」カーネマンの「システム1」を用いて論証している。

選択肢横書・縦配置で中間選択肢「どちらでもない」を真ん中に配置すれば高率になり、最後に配置すれば低率になり、「その他」に置き換えて最後に置けばさらに低率になる。選択肢縦書・横配置で5ポイントスケールの真ん中に「どちらともいえない」を配置したものの最後(6番目)に「その他」を追加すれば回答は6番目に近い選択肢へと誘導される。初頭効果は教科書の記載とは異なり、最初に提示されたもので発現するのではなく最初に強い印象を受けたもので発現する(真ん中あたりにあっても発現する)。選択肢文の長さや選択肢配置の間隔も回答比率に影響を及ぼす。(これらの知見のいくつかは一つ上の論文でも記載されています)

林知己夫生誕100年記念特集の中の選挙予測について論じたもの。戦後、朝日新聞社は林が開発した標本調査による選挙予測を採用した。林は死去する直前まで朝日新聞社の選挙予測の顧問を務め、世論調査部員を指導した。筆者である松田は、1988年入社以来、林から選挙予測や世論調査に対する考え方を学んだ。その考えの筋道の要点をできるだけ簡便に分かりやすく、ただし学術的要素を減じない形でまとめ論じたものである。

2017年衆院選の選挙区の議席予想では、日経新聞が一番正確に報道したと言える。各社が実際の予想得票率を開示しないため、紙面報道された情勢記事における候補者名の登場順や記事表現をデータ化して統計的に分析した。日経新聞と読売新聞は連名で共同調査をしており、同じ調査データを用いて予測しているが、紙面報道の結果はかなり異なる。接戦の見込みが正確だったかどうかを1,2,3位の候補者の選挙得票率の差を用いて分析したり、記事表現の特徴も見極めている。一つ下の論文に全候補者の予想順位や得票率の一覧表が掲載されている。

2017年衆院選で新聞掲載された情勢記事と選挙結果(得票率)を用いて、報道各社の当落予想の正確さを吟味している。紙面掲載された全候補者(選挙区)の情報(各社の予想順位や得票率など)を一覧表にして掲示してある。この論文は埼玉大学の大学院生2名における社会調査法の企画・実習の成果をまとめたものである。

1980年代から実施頻度が増えてきた電話調査は、2000年前後からRDD法(電話番号をランダムに作成してコールする)に切り替わり、2010年代には携帯電話番号も対象にしている。公的な名簿や電話帳を用いた場合や、電話番号を乱数作成する場合や、固定電話と携帯電話という抽出確率が異なるものを複合する場合の課題と対処方法を、実際に取り組んだ事例や講義内容をもとに解説している。調査法の一つである電話法を理解する史料であると同時に、新たな方法論を構築するためのヒント集にもなっている。

埼玉県の7市町を対象に実施した「埼玉県・埼玉大学共同意識調査:人口減少に対応した地域づくり」(一つ下の論文参照)の分析を深めるために、都心部のさいたま市を対象に新たに調査を実施して追加分析し、その成果をまとめたものである。同時に質問を目で見る場合の回答バイアスの発現やその強度を見極める仕掛け(比較実験)も設定された(その成果は2018年や2019年の論文に掲載されている)。巻末にはほぼ全質問に対するクロス集計結果が有意差表示付きで掲載されている。(要注意:ファイルサイズが大きいです)

埼玉県の7市町を対象に実施した「埼玉県・埼玉大学共同意識調査:人口減少に対応した地域づくり」の運用記録をまとめたものである。調査票や封筒の体裁、運用スケジュール、返送特性および回答特性が開示されている。

朝日新聞社が発行するジャーナル誌に掲載された論文である。読売新聞社がいち早く携帯電話番号も対象にしたRDD調査による紙面報道を始めた。次いで日経新聞社、朝日新聞社が対応した。固定電話を持たずに携帯電話のみ所持している人が調査対象から漏れる問題は解決されたが、協力度合い(回収率)の低下が新たな問題となっている。紙面報道されている「回答率」は、電話に応対した人の対応情報から一般世帯および個人と判明した人の数みを分母として有効回答数を除したもの。電話に一切応答しなかった一般世帯および個人の数も分母にした実質的な「回収率」は3割前後か2割台であることを問題提起している。

2000年のアメリカ大統領選挙でハリスインタラクティブはWeb調査を用い、電話調査を用いた他社よりも2倍正確に予測した。この「事件」により日本でもインターネット調査の取り組みが急進行した。当時の日本の調査会社はハリス方式を追随したが、学術機関や一部の企業は確率抽出を用いたナレッジネットワークスの手法を取り込んでいる。2016年大統領選挙では、ギャラップは選挙予測競争の舞台から降りた。携帯電話も対象にしたRDD調査を用いていたが、予測の失敗が続き、原因の究明(その対処)ができなかったからである。そうした「調査の背景」を史料としてまとめ、次代の調査法開発への助言を期したものである。

2015年国勢調査は複合調査(Mixed mode survey)に転換された。まずWeb調査による回答を求め、未回答者には従来型の紙の調査票による回答を求める逐次型で実施された。同一条件で調査することが基本であるが、東京都は国の方針に反して、最初からWeb画面と紙面のどちらか好きなほうで回答させる並行型で実施している。一方で、Web画面と紙面に提示された質問の配置や順番、選択肢の配置が異なるものが目立ち、測定基準の統一が損なわれた調査となっている。こうした問題について、実験調査の報告内容や画面・紙面の体裁を比較して課題提示したものである。

世論調査年鑑の掲載データなどを整理した図表を用いて、実証的に各調査法の課題について論じている。面接調査の回収率低下は、女性の若年層の回収率低下の影響を大きく受けている。電話調査は厳密な「回収率」を計算することを怠ったことにより、さらなる回収率の低下や各社の調査結果が大きく異なる問題が頻出するようになっている。そうした中で、アメリカではRDD法を見捨ててWeb調査に活路を見出すグループが増えてきた。従来型の確率抽出ではなく事前確率を用いるベイズ理論を応用する手法など、アメリカで議論されている情報も開示しながら、課題の深刻さを問い掛けている。

2014年3月4日に開催された埼玉大学社会調査研究センター設置記念シンポジウムにおいて、「伝統的な統計調査を捨てて新たな方法論に切り替えるパラダイムシフトは、調査への信頼を取り戻すために求められる本質ではない。代わりに安定的に80%以上の高回収率を獲得できる『目で見る』複合調査の開発を目指す」ことを提唱している。この提唱の背景を各種データを用いて実証的に示し、筆者が朝日新聞社から埼玉大学に転籍した後に目指す研究の方向性を論じたものである。(注:2020年3月末日で筆者は埼玉大学を辞している)

『社会と調査』の編集委員として特集したものの序文に相当する。選挙予測と出口調査の歴史を紐解いて一定の課題を認識してもらった後に、特集を構成する5名の論文の勘所を紹介している。■江口達也(朝日新聞社)…選挙情勢調査から選挙結果を予測するときの課題、■槙純子(日経リサーチ)…RDD法の課題と選挙情勢調査での運用課題、■大栗正彦(中日新聞社)…出口調査データの開示と比較検討、■僧都儀尚(北海道新聞情報研究所)…出口調査の詳細な運用仕様、■松本正生(埼玉大学)…報道各社世論調査部長・副部長とのパネルディスカッションの要点。この特集をまとめて閲覧できる。

CASIとは Computer Assisted Self-administered Interview の略称であり、回答者がコンピュータの指示に従って自分で回答する方式のことである。ここでは面接調査において調査員に回答内容を知られずに調査を進めることができる方式のことを指す(Web調査画面を回答者側に向けて調査を進行するイメージである)。調査方法を学ぶ人にとっては一般的な社会調査法の書籍には記載されていない調査運用の解説・詳細や調査法の知見を吸収できる良書である。ただし、回収率が低くなることへの対応は研究および言及されていない。この研究に取り組んだ若手研究者に「新しい調査」への追加研究を奨励する一文を付させていただいた。

社会調査法にかかわるほとんどの書籍に、郵送調査の回収率は低い(3割程度)と記述されているが(当時の記述の一覧表掲示)、本当だろうか。そうした教科書の常識に異を唱えるべく、高回収率を獲得できる方法論について解説している。取り上げた方法論は、ディルマンのTDMと筆者のEMMである。社会的交換理論の援用の仕方を、調査票の仕様や謝礼の渡し方や先行研究の知見などを開示しながら説明している。本稿を一読後に関連論文にて論考を深めることで、郵送調査で高回収率を獲得できる(これまでよりも回収率を高められる)ことを保証する。

当時の報道機関が実施する世論調査や選挙情勢調査は固定電話番号のみを対象にしたRDD法を用いている。そのため、固定電話を持たずに携帯電話のみ所持する(携帯限定層である)有権者の意向が把握できず、調査精度の劣化が心配された。衆院選や参院選など大規模な国政選挙での議席予想は、候補者の当選確率を党派別に積算して求める。そのため、特定党派に所属する各候補者の当選確率がわずかしか偏っていなかったとしても、積算により数議席から十数議席の予想ミスを生むこともある。事例による問題点の把握と予測モデルの統計的な特性を把握したうえで、この課題について議論している。

固定電話を持たず携帯電話のみ持つ人を調査法の用語でCPO : Cell Phone Onlyという。この日本語訳として「携帯限定層」という言葉が使われている。読売、朝日、毎日、中日の各新聞社に、①「携帯限定層」を調べた調査モード(面接か郵送か)、②「携帯限定層」の定義(質問文)、③内閣支持・政党支持および各属性別の「携帯限定層」の割合などを開示してもらい、一覧表にまとめた。年代が若いほど「携帯限定層」が増え、住居形態が一戸建ての人では「携帯限定層」が減る。面接調査では郵送調査に比べて「携帯限定層」の割合は半減する。

日本行動計量学会第37回大会の特別セッション「郵送調査法ー新たな時代の主力手法となりえるかー」での発表者のうち、林英夫・小島秀夫・松田映二の3名で郵送調査法の特集論文を構成した。その序文である。林は近年の郵送調査法の動向を総説し、小島はディルマンのTDMに準じた実験調査の結果を用いて論じ、松田は朝日新聞社での調査運用記録を用いて論じている。この特集は、マイナー扱いされてきた郵送調査法の歴史的な晴れ舞台となっている。(松田の論文はこの下にあるリンクで閲覧できる)

2004年から2009年までに実施された12件の郵送調査の運用記録から、郵送調査は高回収率を獲得できる調査法であることを実証している。読者が新たな工夫を得るためのヒントとなるよう、巻末に詳細な運用記録および返送記録を掲載した。なお、松田が提唱した有効極大化法(EMM: Effective Maximization Method)の原理に気づく契機となった実験結果が掲示されている(「図1.返送における謝礼効果」参照)。要点は当サイトのTip/Facts」のTF-20200501A「催促は高回収を妨げる」でも確認できる。

日本選挙学会の方法論部会で、有効極大化法(EMM: Effective Maximization Method)の説明に特化して発表したものである。EMMを実際の郵送調査に適用する手順が詳細に整理されている。郵送調査は「DK(Don't Know)やNA(No Answer)が多い」ことも批判の対象となっているが、郵送調査のDK・NAの割合は面接調査と同等程度であり回答の品質も悪くないことを示している。「社会的に望ましい」行為にかかわる調査バイアスも、調査員が介在しない郵送調査では軽減されることを、複数の調査事例を示して説明されている。

関西学院大学の大谷信介教授の発案で企画された特集である。座談会のメンバーは政府(1)・大学/研究機関(5)・報道(2)からの8名で構成され、各人の経験や研究成果をもとにした発言がなされている。この時点での回収率に対するリアルな証言を記録した史料となるものである。篠木氏、吉川氏の基調論文の後に座談会記録が収録されている。

2009年5月にハリウッド(FL)で開催されたAAPOR(アメリカ世論調査学会)カンファレンスでの取材後に調査方法論についてのトピックスと論考をまとめたものである。大会のチェアマンであるマイケル・リンクは、調査対象者の選定をRDDからABSに転換したことを公表した。ABSとはAddress Based Sampleの略称であり、USPS(アメリカ郵政公社)の郵便集配リスト(住所のみで氏名は無い)を用いるサンプリングのことである。これはアメリカの調査史における一大転換であり、古くてダメな調査方法とされてきた郵送調査が、アメリカでも復権する契機となった。郵送とインターネットの複合調査を推進するドン・ディルマンやコンピューターを利用する調査法の権威であるミック・クーパーへの取材もなされている。

2009年5月にアメリカ世論調査学会に参加した報告である。対象者選定をRDDからABSに転換したマイケル・リンクの発表やドン・ディルマン、ミック・クーパーらへの取材証言なども報告されている。詳細な論考は一つ上の報告論文を参照してください。

社会調査協会が発行するジャーナル誌『社会と調査』の創刊号に掲載された招聘論文である。まず、携帯電話の普及によりRDD調査のカバレッジが低減していることに触れ、携帯電話調査を実施する場合の課題について論じている。面接調査における調査員の不正事件や回収率低下の問題、電話調査の精度低下への対応、郵送調査の復権などに絡めて、「調査の多様性」と「調査と人」について論じている。

朝日新聞社の選挙調査(4)と世論調査(3)の計7つの郵送調査における運用記録を整理して知見をまとめ論じたものである。回収率80%のものもあり、高回収率を獲得する運用方針については、ディルマンやマンジョーニの方法と比較検証されている。郵送調査の回答の質は悪いという批判に対しては、①都市規模別・年代別・学歴別の構成比が国勢調査結果とほぼ一致する、②選挙調査での候補者名の名挙げ率が電話調査に比べて極端に高い、③「社会的望ましさ」にかかわる質問では面接調査と郵送調査で傾向が逆転している、ことなどを示して反論している。

朝日新聞社の郵送調査の運用指針が固まった後で最初に実施された「信用意識」調査は、2008年2~3月に実施され、回収率は78%と高くなった。続く2008年6~7月の「健康意識」調査では77%、2009年2~3月の「政治意識」調査では79%であり、同じ運用をすれば調査テーマにかかわらず8割程度の回収が得られることを実証できた。この「信用意識」調査の生データを統計数理研究所の国民性調査にかかわる先生がたに提供して分析してもらい掲載した。郵送調査のデータは質が悪くなくむしろ良いことを、先生たちに実感してもらう戦略であった。

若者の選挙行動を探るためにインターネット調査による連続調査(意識変化を追う)を実施し、その分析結果を報告したもの。調査結果は『ロストジェネレーションの逆襲』(朝日新書)にも掲載されている。


複数の調査手法を合わせて調査するものを Mixed-mode あるいは Multi-mode Survey という。ミックスとマルチの違いは何かをディルマンやクーパーに聞いたが、同じ意味で使われているとのこと。日本では混合調査や混成調査と訳されたものが目立つが、やみくもに混ぜ合わせるのではなく実証的な知見から組み合わせることを考えれば、複合調査と訳すべきである。複合調査のタイプを一覧表で整理するとともに、回答聴取のためか回収支援のためか、どのモードをどの時点で利用するかの調査設計に資するダイアグラムも提案されている。

2006年7月20日に告示され、8月6日に投開票された長野県知事選挙では、村井仁氏(53.4%)が田中康夫氏(46.6%)の再選を阻んだ。約2週間の選挙期間中に実施した郵送調査の結果は、村井52%、田中48%となり、本番の当落予測で利用されたRDD調査の結果と同率だった。わずか2週間程度の郵送調査で、催促はがき1回使用のみで、回収率80%を達成。選挙後にも事後調査を郵送法で実施し、投票前と後の有権者の意識の変化も分析報道された(長野県版)。並行実施したインターネット調査の結果も併記して、課題について論じている。

朝日新聞社が実施した各種調査の実態を情報開示して論じたものである。RDD法のテスト調査が1996年の秋田県知事選挙から始められ、選挙調査で確立した方法論が全国世論調査に適用されるまでの経緯が紹介されている。電話調査の回数が増えることで面接調査が減り、優秀な調査員の確保や育成の機会が激減したことにより、面接調査の回収率(精度)が低下したと指摘している。郵送調査やインターネット調査の成果や課題にも触れている。

2005年秋に実施された「お金意識調査」の成果を報告したものである。お金に対する考え方や年収などの開示したくない情報も、調査員が介在しない郵送調査では高精度で聞き取れる。回収率は71%と前年の「防災意識調査」の78%を下回ったが、調査テーマへの抵抗感を考慮すれば高回収だと言える。郵送法による全国意識調査の回収率が2回連続7割超になったことで、面接調査から郵送調査への転換が決定的となった。

面接調査の回答内容の偏りに危機感を感じて電話調査や郵送調査を開発したが、多くの学術関係者や調査者から批判を受けた。その批判に対して日本世論調査協会の年次大会で反論および課題提示した内容をまとめたものである。当時の批判の中には的外れと感じたものが多かったことから、文章表現の中には批判への激高が漏れて感情が滲む部分もみられる。「名簿閲覧の原則禁止」「公益性よりプライバシー重視」「調査手法への偏見」の壁について考え、これらの壁を乗り越える方向性を訴えている。

2005年5月にマイアミ(FL)で開催されたAAPOR(アメリカ世論調査学会)のカンファレンスに参加した。その機会を利用して、非確率標本を用いたインターネット調査の方法論を実践するハリスインタラクティブ、確率標本を用いたインターネット調査の方法論を実践するナレッジネットワークス、電話調査に固執するギャラップの各本社を訪ねて取材した。RDD調査への信頼の低下を受けて、複数の調査手法を合わせて調査する複合調査(Mixed mode Survey)へ舵を切るアメリカの調査事情をオーラルで調べ、論考を加えて執筆されたものである。筆者はこれを読み返すたびに、同じ問題意識を抱えて同行した調査会社の方々との苦難の行程を懐かしく思い出す。

2004年参院選時に実施した大規模郵送調査の成果を受けて、全国世論調査に初めて郵送法を適用したところ78%の高回収となった。社員は私一人でほかは学生という郵送調査の運用対応(惨状)を見かねた青木さん(日刊スポーツロジテム)が、ロジスティックを受け持ってくださったことが大成功につながった。以降、ロジステック会社との協業で「高回収率を獲得する郵送調査法」が作り上げられた。このときの名簿管理や運用管理、データ入力を受け持つ会社は朝日以外の報道機関や学術機関に紹介され、同様の成果を上げている。

2005年5月にマイアミ(FL)で開催されたAAPOR(アメリカ世論調査学会)のカンファレンスに参加し、ミック・クーパーやドン・ディルマンらの調査法の権威に取材した。その後、ハリスインタラクティブのロチェスター本社やニューヨークのハリスポール本部を訪れ、スタンフォード大学の近くにあるナレッジネットワークスへも取材した。十分な内容を紹介できたのはアダムスコミュニケーションの青尾、住本両氏の支援のおかげである。この報告と2つ上にある朝日総研リポートを読めば、この時点での調査事情と課題および新しい対応方針の形成過程がわかる。

2004年参院選挙時に直近の面接調査(標本サイズ=3,000×4回分=12,000)の対象者に郵送法で調べた結果をもとに日本世論調査協会で発表したもの。朝日新聞社世論調査部が初めて実施した大規模な郵送調査である。投票日前調査の回収率は63%、投票日後の回収率は53%。選挙での投票意向や実際の投票先などを調べたものも報告されている。なお、運用情報のほかに、過去の面接調査の非協力者が郵送調査で協力したかどうかなど調査法による回答層の偏りについても属性別に確認した内容が報告されている。本稿は短いダイジェスト版であり、詳細はこの一つ下の論文で報告されている。

2000年総選挙でのRDD法一部導入の後、2001年参院選でのRDD法全面転換により当落予測の精度を格段に向上させた。にもかかわらず予測担当を外された。外される見返りに実験調査の企画を通した。将来のインターネット調査への転換を見越して、2004年参院選挙で自記式である郵送調査を試行した。標本サイズ12,000である。このときの調査結果の分析と郵送調査の運用について論じたものである。(湯河原の楽山荘に掲示されていた緒形拳の金釘流の色紙を思い出す――「逆境面白し」。後から振り返れば逆境が成長の糧だったと知る)

面接調査や名簿法による電話調査に基づく予測に付随した保守系優勢の傾向(偏り)が、RDD調査に移行した後に是正された。そうした背景の中での、調査法にかかわる議論である。

武藤滋夫先生が企画された「選挙とOR」の特集に掲載されたもの。朝日新聞社は2000年総選挙のときに全300小選挙区の半分を選挙人名簿から抽出した後に電話帳で番号を調べて調査する名簿法で、残る半分を乱数で電話番号を作成して調査するRDD法で実施した。選挙予測では、過去データの傾向を基にして予測式を作成する。過去データが無いRDD法のための予測式を作成する場合の工夫・論考が記されている。参院選挙ではこの衆院選でRDD調査した1人区のデータを基に改選数2など複数区の予測式を作成した。制限されたデータの中から有効な情報を引き出しデータ操作するヒントが読み取れる。

杉山明子先生の企画した特集「電話調査の精度」で採択されたもの。朝日新聞社が面接調査から電話調査へ、電話調査でも名簿法からRDD法へ移行した理由を①カバレッジ②ノンレスポンス③メジャーメントの各規準に照らして論述されている。RDD法については、なぜ下4桁乱数ではなく下2桁乱数の発生を採用したか、どのように標本(電話番号)を作成しているか、どのように運用(発信の工夫、調査員の管理など)しているか、どのようにデータ処理(補正など)をしているか、などの企業情報を許される範囲で開示している。「RDD調査の精度」は選挙結果との比較で確認されている。

AAPOR(アメリカ世論調査学会)の年次大会に初めて参加したときの報告である。海外取材費の消化目的で田上部長から出張命令を受けて、急いで企画設定した取材である(これ以降の調査法取材のためにとても有益な経験をさせていただいた)。日本世論調査協会の大会とは大違いで4日間連続で朝から夜まで様々な課題について発表や議論がなされる。そのうちのインターネット調査における最新情報の収集に時間をかけた。ミック・クーパーとの情報交換もこのときから始まった。これ以降AAPORの情報ウォッチが始まったが、2017年頃からはインターネットを利用した複合調査の研究がより進んでいるESRA(ヨーロッパ調査研究学会)のほうのウォッチに比重を移している。

朝日新聞社がRDD調査に移行した理由は、①2000年総選挙時に名簿法とRDD法の両方の電話調査を実施したが圧倒的にRDD法の精度が高かった②RDD法による世論調査の結果を面接調査のものと比較すると若年層の回答傾向に差異が目立つ質問があるがむしろRDD調査のほうが適切と判断できる③RDD調査に全面転換した2001年参院選の予測がドンピシャだったことである。単なる論文の引用や理屈による論述ではなくデータにより実証している。

1988年4月に朝日新聞社世論調査室に配属されたときに、一番穏やかな笑みを湛えて歓迎してくれた岡本さん。編集委員としての仕事に加え林知己夫先生と共同で選挙予測のための「いきおい理論」の研究に従事していた。理論を実際の選挙データに適用した検証を私がパソコンで行っていた。岡本さんの著書に「ケースデータにみる社会・世論調査」がある。統計数理研究所が5年ごとに実施している国民性調査の中にある「人情課長」の質問では、日本人はドライな上司よりはウエットな上司が圧倒的に好きだという結果が毎回続いていた。長い選択肢文の前半と後半を入れ換え同じ趣旨で聞いてみると、ドライ派とウエット派が折半されることを岡本さんが発見した。その後、統数研の本番調査でも試行されてその事実が再確認された。

挨拶文を書くべきところを、電話調査への批判に対するコメントを書いたものである。行動計量学会の年次大会などに行けば必ず、発表や講演の合間に「また朝日が電話調査をやった」「けしからん」といった批判話が聞こえてきた。学会などで表立たずにずっと実務に徹するつもりであったが、否定するのは実態をよく知らないからだと悟り、説明責任を果たすために対外的な発表や執筆を始めた。このコメント文がその始まりである。(2010年に朝日新聞社を早期退職する折に世論調査協会から脱会した)